このように、高速ツアーバスという業態は、誕生から11年で終焉した。関越道事故を防ぐことができなかった点は悔しいの一言であるが、小規模な新規参入者が大きく成長し、とかく保守的と言われるバス業界全体に刺激を与えたと評価されるべき点もあるだろう。
もっとも、保守的な既存プレーヤー中心の業界に、異質の思考回路を持つ新規参入者が現れ、業界の反発を招きながらも市場を奪っていくという現象は、バス以外の業界でも起こっているだろう。例えば、シェアリングエコノミー(民泊やライドシェアなど)の台頭である。
そのような変化に対し、「規制の抜け穴を突きやがって」などと感情的に反発する既存プレーヤーの姿もよく目にする。その感情はよく理解できる。
だが、単純に反発する前に、ウェブ化の進展による流通のあり方の変化をよく理解すべきだ。ウェブの販売力活用なしには、高速ツアーバスの成長はなかった。ウェブの力があったからこそ、後発の中小プレーヤーでも容易に市場を開拓できたのである。
ましてや、シェアリングエコノミーは完全にウェブに寄って立つ。業界内の事情から新しい事業モデルを禁止しようとしても、ウェブを通して市場と直接結びついてしまうので、その規制は実効性を持ちえない。
一方で、個人または小規模なプレーヤーがサービスを提供することになるから、関越道事故に相当する社会的な問題を引き起こしてしまうリスクは大きい。業界のイメージダウンとなって、既存プレーヤーにさえ悪影響を与えうる。
高速ツアーバスという異質の存在を育てた経験から言えば、声高に禁止を叫んでも市場側のニーズがある以上は完全に排除できない。
それならば、流通者(予約プラットフォームなど)らに対し、彼ら自身の成長のためにも、新規プレーヤーたちを啓蒙し新しい事業モデルの健全な育成に力を注ぐよう促すことが、最も効果的と思われる。むしろ、既存プレーヤーにとっても、変革の大きな機会を与えられたのだと理解すべきである。
(高速バスマーケティング研究所代表)